こんすけが斬る! 其の五
▼勘違いとは、意味を曲解したり、正しく理解できないことで起こるものだけではない。例えば、表裏のように、一度だけで同時には見ること、論じることが難しいことによって生じる場合がある。
▼直近の二回で、私はIT企業の価値を、品位を貶めるような情報を、私の経験に基づいて話してきた。あれらは間違いなくIT企業の実態であり、嘘偽りない真実だ。その真実を受けて、どう感じただろうか。わざわざそんな世界に入りたくないと思っただろうか。嫌な業界だと自然と眉間に皺を寄せただろうか。もっと別の業界を探そうと考えはしなかっただろうか。それらは正しい反応だ。けれど、もしそれだけの情報で本当にIT業界からそっぽを向いてしまう、踵を返して潔よく立ち去ろうとしてしまったら……してしまいそうになったら、それははっきり言えることだが、過ちだ。
▼物事が一枚岩でできていることなど、私は作り込まれた精巧なプロットの上で成り立つフィクションの世界でしかみたことがない。真犯人は誰かしらがいて、その誰かしらの動機によって事件が起こり、主人公が事件に深く関与していて、数多の組織や友人らと真相を解明し、時には罠にかけられながらも最後には真犯人へと行き着き、物語は収束する。だが、現実は収束などせず、無限に広がる問題と課題によって風呂敷を畳めず、むしろ拡散していくものだ。
▼物事には側面がある。表裏など単純なものだけでなく、もっと複雑で多面的構造を持ちうる。直近の二回で、IT企業のたった一面だけ見せた。それはマイナスの面だった。ただそれだけのことだ。もし、プラスの面を伝え、最後までIT業界はこんなにいいところだ、働きがいがある、きみの欲望を満たせる……などとあからさますぎても胡散臭いが、そのような切り口で話していたらどうだっただろうか。多くは、対極の感想が頭を過ぎることだろう。実際に、よいところはいくつもある。例をあげればキリがないが、ここでしかできない物作りができる。システムを作るということだ。それがこの業界のメインであり、根幹であり、そして意欲に繋がる部分だ。本当に、この業界でしかできないことが、当たり前だが、ここにはある。
▼多くのことはここでは語りきれず、次回以降に持ち越すこととするが、とにかく、収束なんてするはずのない、常に問題をかかえ、解決するたびに次の問題が起きて拡散していく現実では、いつだってあらゆる面を想定し、考え、情報を天秤にかけて見極めることが大切だ。転職も、そして社会で生き抜くには、必須といえるスキルだろう。そしてIT業界ではなおさら必要なスキルでもあるのだ。
筆者のプロフィール。
こんすけ
1989年(平成元年)、神奈川県生まれ。大学の建築学科を中退後、若干のフリーター生活を経てIT業界へ。IT営業を経たのち、もっと開発に近い現場での経験を求め、同じIT業界で転職。エンジニアではないが、営業経験を生かし、営業と開発の中間でディレクション業務をこなし、IT業界の抱える問題点について日夜研究中。好きなものは牛乳。